くろやんの日記

思考・映画・ごはん・旅・自転車・読書・ライフハックのメモ帳ーPersistence makes me.

どうやったらこの呪いが解けるのか

 

f:id:kuro-yan:20170814101237j:plain

 

暑い日に電車に乗って空いていると、クーラーがとても気持ちがいい。

気持ちがいいまま空いている席に座ると、目の前にとても大きな白い紙袋持った男性が座っていた。 

白い大きな紙袋に、大きくI forgot と書いてあった。

主張は大きいけれど、文字の色は灰色で、若干の謙虚さがある。

 

文字だけではなかった。小さい赤い風船の絵が、Iとforgotの間を飛んでいた。

 

男性の年齢は30代前半か、疲れ切った20代後半くらい。

スーツが身の丈にきちんと合っていて、ネクタイのセンスもいい。営業マンだろうか。

 

紙袋はペシャンコで、中身は空っぽのようだった。けれども、男性はビジネスバックを足元に置いて、I forgotの大きな紙袋を手に持っていた。

ただ、投げやりに持っているのではなかった。I forgotが前に座っている人に見えやすいように持っていた。

 

 

なぜ、こんなにもI forgotが頭から離れないのだろう。この場合、きっとI forgotはデザインだ。ただ紙袋に印刷された星マークとか、ハートマークとか、ネズミのマークとかと変わりないはずだ。

 

でも、なぜ、こんなにもI forgotと書かれたあの紙袋のデザインが忘れられないのだろう。

その辺の日本人が、New Yorkとか、Speedとか書かれたTシャツを着ていても、いつもなら気にせず通り過ぎてしまうのに。

その辺の外国人が、武士道とか、烏賊とか、ぎっくり腰とか書かれたTシャツを着ていても、電車が2駅も3駅も通り過ぎるくらいに考え込むことなんてなかったのに。

 

 

そういえば、前にも、忘れられない文字によるデザインと、出会ったことがあった。

 

場所はイタリア。そのあとに行ったスイスでも見かけた。

あまりにもたくさんの人が着ていたそれには、見たこともない日本語が書かれていた。

 

異様だった。

 

金髪美女からフサフサにヒゲを蓄えた老人まで。

その文字デザインのカバンを持っている人もいた。

人が集まる駅では、必ずその文字が目に入る。

 

こう書かれていた。

 

Superdry極度乾燥(しなさい)

 

大体が黒地に白、もしくは白地に真っ黒のゴシック体で書かれていた。

いや、この場合は描かれていた、となるのだろうか。

I forgotより主張は強かった。

見た目はもちろん、意味も。

 

極度乾燥までは何とか分かる。

そんな四字熟語ないけど、原宿あたりで最近誕生したのかもしれない。

 

でも、(しなさい)はどうして?

なんで、かっこで、囲まれているんだ?

どんな意味が隠されているんだ?

そもそも極度乾燥(しなさい)ってどんな状態?

 

すぐにネット検索をしたかったけれど、ポケットwifiを持たない旅だったので、フリーwifiがある場所に着くまで、悶々と考え続けた。

 

検索をかけると、答えはすぐに見つかった。

Superdry極度乾燥(しなさい)は、服のブランドだった。

スーパーグループという会社が作ったもので、しかもこのブランドのヒットもあってか、上場もしている。

 

そしてこれは、日本ではなくイギリスのブランドだった。

 

よくある、外国人による訳し間違え、から誕生したのかと思いきや、日本語を間違えてしまった訳ではなかった。

諸説あるが、発案者がSuperdryな日本のビールにインスパイアされ、文字を並べ、しなさいに()をつけてみたら、この文字列カッコいいじゃん、という具合に誕生したらしい。意図的に(しなさい)にしていたのだ。

 

 

ここまで思い出したとき、はっと気がついた。

 

だから私は、I forgotが忘れられないのか、と。

そして、この場合I forgotが完全に勝利していることにも気がついた。

I forgotはデザインそのものなのだ。

 

今回、I forgotは紙袋に書かれている。紙袋にお店のロゴが入っている大きな理由の一つは広告効果だ。

紙袋は人が持って歩くことによって、歩く広告になる。

 

広告ということなら、見た人の目に残らなければいけない。

そしてI forgotは私の目に残った。

 

意味としては残っていない。

「私は忘れた」

日本語に訳しても意味不明だ。

でもそれはSuperdry極度乾燥(しなさい)も同じだ。

文章としての意味なんてないのだ。

カリグラフィー的な美しさとも違う。

 

ただのゴシック体なのに、美しい。

これはこの文字列でしか完成されない、デザインなのだ。

 

そしてI forgotは文字列だけで構成されたデザインではなかった。

そう、忘れてはいけない。

Iとforgotの間には赤い風船が浮かんでいた。

 

そんなことを考えている間に、電車は終点についた。

乗り換えだ。

 

紙袋を持った男性はI forgotが描かれた大きな紙袋を折ることもせずそのまま持って立ち上がった。

I forgetという言葉が電車から降りていくとき、ああ、いっちゃった。と心で呟いていた。

心の具合は、うっかり風船を自分の手から離してしまい、空に飛んでいかせてしまった時と同じだ。

それはきっと、あの赤い風船のデザインの力だ。

 

Superdry極度乾燥(しなさい)といい、I forgotといい、ここまで私の頭を支配するデザインの力は、よくよく考えると恐ろしい。

 

きっとまた乗り換えて、降りる予定の駅で降りて、目的地に着いても、その日一日I forgotを超えるものに出会わない限り、I forgotについて考えてしまうのだ。

 

 

考えていた通り、目的地である夫の実家に到着し、義母とのお茶タイムが始まっても、脳内の5%くらいをI forgotが支配していた。たまにSuperdry極度乾燥(しなさい)も顔を出す。

夫の実家で飼っている猫のブラッシングをしている間もI forgotが頭をよぎる。猫は気持ち良さそうだ。

 

これは、あれだ、暑い日にビールのことをつい考えちゃう病だ。

暑い中力仕事をしていると、終わったらキンキンに冷えたビールを飲みたいな、とか考える。考え始めると、ビールのことばっかり考えて仕事を頑張る。

 

でも、ビールは消費した瞬間に満足するけど、I forgotはどうなるの?

買いにいかないとこのデザインの呪いは解けないの?

 

結局、家に帰ってくるまで、帰りの電車の中までも悶々とI forgotについて考えてしまった。

夕ご飯を作りながらも頭の中を流れる。もはや私の脳内CMだ。

 

ドアの鍵がガシャン、と鳴って、夫が帰ってきた。

おかえり、と出迎えて、私の開口一番はこれだった。

 

「ねえ、今日さ、I forgotっていう紙袋を見てさ」

 

私は忘れた、なんて嘘だ。

夫への広告効果も発揮して、I forgotの完全勝利だわ。。